新入社員と気に入らない社員の潰し方講座

かれこれ、もう3年近く前の話なので、記憶が徐々に薄れつつあるオーエル時代。しかし、あの辛かった日々、虐げられた痛みをここでどうにか復讐しようと悪あがきをしている執念深い女は、まぎれもなくこの私である。

さて、今回はブラック企業特有の「新入社員のいじめ方」と「気に入らない社員の辞めさせ方」についてお話したいと思う。

仕事が出来ない人間を擁護するつもりではないが、人にはそれぞれ得手不得手があるように、仕事の職種や業務内容によって個々が生かせる能力というのは違ってくる。就職難に嘆く人々が溢れ返っているこのご時世、新卒の若者でさえも内定を貰えないという噂もよく耳にする。誰もが自分が思い描く理想の職種に就けるとは限らない。自分がやりたいと思っている仕事に就いている人の方が少ないのではないか。あらゆる部分でみんな、妥協し我慢しながら、飯の種の為、家族の為に働いているのだ。

前置きが長くなってしまったが、私が新入社員として例の旅行会社に入社した理由は、この会社からしか内定が貰えなかったからである。実はギリギリまで内定辞退しようか否かを悩んでいた。アメリカで働いてみたい、もう少し頑張ってみたいと思っていた上に、他にオプションがなかったので仕方なくあの会社に入社する事に決めたのだ。

入社してからの研修期間は地獄だった。まず、私は要領が悪くトロいので、与えられた仕事が全く出来なかった。内容は旅行の予約受付業務。

大学では芸術を専攻していたので、全く関係のない仕事な上に興味がなかったのも手伝い、毎日が苦痛で仕方なかった。仕事が出来ない上に気が弱い私は恰好の餌食となった。

まずは、私が仕事でミスをすると大声で怒鳴られ、他の社員の見せしめとなる。そんな事も出来ないのか!また同じミスか!この給料泥棒!アホ、馬鹿、仕舞いには社員をお前呼ばわれ。罵る言葉の程度の低さにも呆れる。

聞いた話ではあるが、某有名大学(T大学としよう)を卒業した新入社員がミスをした際は、「T大出てるのに、こんな事も分からないのか!」と罵られたらしい。学歴コンプレックス丸出しではないか。自分で自分をバカだとオフィスの真ん中で叫んでいるようなものである。なんとも情けない話だ。

言葉の暴力だけに留まらず、ミスをした時にみぞおちを殴られた事もある。別の男性社員は、蹴りをカマされた事もあるらしい…。

また、私のように仕事が出来ない人間は、濡れ衣を被せられ易い。自分のミスでなくても「お前のミスに決まっている」との先入観を持たれているので、自分が悪くないのに意味もなく怒鳴り、当たり散らされる事が日常茶飯事だった。周りも見て見ぬ振り、正義を振りかざした所で自分に被害が及ぶのはゴメンだ。誰も上司のストレス発散の的にはなりたくない。

毎日夜遅くまで残って仕事をしていたので、家に帰る頃にはスーパーマーケットは全て閉まっていた。研修期間は残業代が付かなかったので、外食をするのも苦しく、料理をする事すらままならなかったので食べものへのアクセスが限られていた。その上、強迫観念と仕事に対するプレッシャーで鬱気味になり、食欲がなくなり、どんどん痩せていった。急な痩せ方に周りの人に心配された。風が強い日には吹き飛ばされて横断歩道に倒れ込むくらいに痩せていた。時々、通勤電車で目眩に襲われたり、貧血で気分が悪くなってしゃがみ込んだりもした。会社を休んだら罵られ、後ろ指をさされるので休めない。這いつくばってでも会社に行った。病んではいたが、体重的な意味では、あの頃にもう一度戻りたい。

世の中の事を何も知らない新入社員だった私は、これが世の中の普通なのだと洗脳されていた。「パワハラ」でググってみたところ、私が研修当時に受けていた「教育指導」は、全てパワハラに該当したので驚いた。

私だけでなく、同期のAちゃんやBちゃんも同じ思いだったらしい。幸い、Bちゃんは経理部、私は広告作成へ部署異動が出来たのでストレスが半減したのであるが、Aちゃんは予約部で毎日言葉の暴力に虐げられ、半年後には立派な鬱患者となってしまった。彼女は、全てに対する自信がなくなってしまって、誰からも自分は認められないダメ人間だと思い込むようになったのだ。終業後によく一緒にご飯を食べに行ったり、近場に小旅行へ行ったりする仲の良い関係だったので、お互い会社の愚痴を言い合ってストレスを発散していたものの、毎日会社で過ごす8時間はAちゃんには相当堪えたようであった。Aちゃんは一年半後に日本へ引き上げ、新しい職場では自分の価値を理解してくれる人達と出会い、ストレスフリーで生活している様子で何より。余談だが、私が日本で結婚式を挙げた時にAちゃんも参加してくれた。

Aちゃんのように、潔く日本に引き上げる子は問題がないのであるが、やはりアメリカが好きで残りたいという人も多い。しかし、ビザという厄介者の為に、このくだらない会社の奴隷にならなければならない、交換条件を身に纏っている人も少なくない。会社に逆らうと、ビザを打ち切られると脅される。ビザを打ち切られると、アメリカにはもう残れなくなってしまうのだ。

ブラック会社はこうしてアメリカで働きたい社員の足元を見ている。

新入社員いじめでストレスを発散するだけでなく、気に入らない社員を「辞めさせる」為に徹底的に追い込むのも、ブラック企業の大好物だ。売れ残りのアラフォー僻み女たちが牛耳っているオフィスだけあり、何かに付けて底意地が悪い。正直、会社幹部は全員人格障害ではないかと疑ってしまう。

さて、なぜ故に社員を解雇ではなく、退職に追い込む必要があるのか?

金である。

アメリカは、自主退職はいかなる理由であれ失業手当/保険が出ない。解雇すると、失業手当を払わなければならず、出費になってしまう。要するに、ブラック企業は社員にビタ一文払いたくないから、社員に嫌がらせをし、精神を病ませ、退職に追い込むのだ。

まずは、典型的なブラック会社にありがちな、社内の派閥劇。会社幹部でも派閥が分かれており、権力のある会社幹部Oがほぼ社内を独占していた。OはマネージャーIさんが気に入らなかったらしく、彼女を左遷させる事に決めた。理由は「Oさんはニューヨーク支部で甘やかされ過ぎているから」という曖昧なもの。Iさんは長く付き合っている彼氏がニューヨークにいて、そろそろ結婚しようか、という頃合いだった。OはIさんがニューヨークに残りたい事を重々承知の上での嫌がらせである。Iさんは立場上、会社命令の異動を拒否する事が出来たので、左遷を断った。

すると、翌日から権力行使の嫌がらせの開始。

今直ぐに必要もない他社のマーケティング・レポートを明日までに10枚書いて来いだの、利益を上げる為の企画書を書いて来いだのなんだの、しょうもない宿題を提出し始めたのである。

Iさんは、マーテケティング・レポートを書いている時にふと我に返り、「私はこの会社で、一体何をやっているのだろう?」と気づき、翌週には退職届を出したそうだ。今となれば、例の彼氏と結婚し子を授かり、幸せに暮らしている様子で何より。

また、私が同期から聞いた話であるが、3年程前にガンを煩ってしまった、マネージャークラスの人がいたらしい。病状はかなり深刻だったらしく、生死に関わるくらいに危ないラインを彷徨っていた。妻子があるにも関わらず、闘病生活を余儀なくされ、半年程日本で療養していたそうだ。奇跡的に回復し、復職に至ったものの抗がん剤治療を受けながらの勤務となったのだ。

目の前に末期がん患者を目の当たりにした方はお分かりだと思うが、抗がん剤治療といったら、本人でなくても見ているだけでその辛さは十二分に伝わる。私の祖父が肺がんを煩い、抗がん剤治療を受けていた時の記憶が鮮明に蘇る。とても強がりなあの祖父でさえも、弱音を思わず吐いていた。治療時以外はずっとベッドで横になっていてダルそうだったし、話しかけても弱々しい微笑みが返って来る程度の相づち。その辛さは、隠しても隠しきれていなかった。

会社側は半年も休んでいた人間がまたマネージャーという立ち位置に戻り、同じ給料を得る事と、彼の仕事の能率が下がる事が気に入らなかったらしい。抗がん剤治療を受けながらの勤務は決して容易ではない。むしろ、健康だった時と同じ仕事の生産性を求める事がそもそも間違いである。このマネージャーもまた、「君のこの仕事量でマネージャーは相応しくない。」と会社幹部や社員になじられ、自分が病気を煩っているという負い目も手伝って最終的には自主退職に追い込まれたそうだ。

さすがのガンジーもハンマー片手にオフィスのPCディスプレイを叩き割って周り、マザー・テレサはハーレーに乗ってオフィスに突っ込むレベルだ。人として、やって良いことと悪い事があるが、ここのオフィスの人間にはそんなシンプルな事も分からない。

以上の新入社員や気に入らない社員への追い込み方は、完全にパワーハラスメント行為に該当する。

しかしながら、自分の生活だけならまだ100歩譲ってある程度我慢が出来ても、家庭のある人は失業となると自分だけの責任ではなくなってしまう。乳飲み子を飢え死にさせる訳にはいかない。アメリカで働いているという移民という、政府の福利厚生が享受できない圧倒的不利な立場にある為に、余計にがんじがらめになってしまうのだ。例えば、弁護士を立てて訴える!などの、会社に歯向かう態度を見せれば、先程も述べたように、ビザを切られてアメリカから追放されてしまう。

あの会社の体質からして、「退職」といったかたちでしか解決策がないようだ。これじゃ、一世を風靡した「リング」の呪いのテープと同じではないか。また、今年も、無知な新入社員が虐げられ、プライドをズタズタにされて自信を粉々に砕かれた上に、新卒という一生モノのブランドを無にする。会社幹部のストレス発散の的となった社員の精神が狂ってしまう。

私は、あの2年間で泣き寝入りした社員を一体何人見て来ただろう。

別に、他人の為の正義感からこのブログを立ち上げた訳じゃない。ただ、私は納得出来ないのだ。社員の足元を見ているあの会社を、これ以上図に乗らせる訳にはいかない。

どこの誰でもいい、少しでも多くの人に、私が、同期のAとBが、仲の良かった先輩たちが、また今まだあの会社で苦しんでいる社員が経験した/経験している理不尽を聞いてもらいたい。だから、一方的に自分の意見が述べられる文章という狡い手段でブログを立ち上げた。私が見、聞き、体験したそれを、このブログを読んで知ってくれる人が一人でもいればそれでいい。ブラック企業で苦しんでいる社員が、これを読んで退職を検討するきっかけになってくれれば、尚更良いと思っている。

今は理想の職種に就けて、充実した毎日を送っている。しかし、私が経験した地獄の2年間で募った怒り・憤りは、そう簡単に打ち消されるものではない。

※こんな会社にしか内定貰えなかったのは自分の責任でしょ?と突っ込まれれば、身も蓋もないんですけどね…。涙