死人が出る会社

元同僚がホームパーティーに招待してくれた。そこで久々の再会を果たした、例のブラック旅行会社の元同僚たち。ほとんどが転職し、各々に新しい一歩を踏み出している。私たちは底辺中の底辺にいたので、あの会社を経験済みならばどこでもやっていける。軍隊同様の忍耐力を培われるということだけが、ブラックの唯一の強みだ。

ブラック会社の元同僚が10人近く集まるとなると、当然話題はあの会社の話になる。現存の社員から退職後の経過を聞いたところ、出るわ、出るわの驚きのストーリー。

女とオカマと片手に収まる程のノンケしかいないあの会社の中で繰り広げられる不倫劇やら恋愛沙汰やらなんやら。余計なお世話かもしれないが、範疇が狭過ぎて近親相姦を思わせる気味の悪さだ。日本国内ならまだしも、わざわざ狭い日本を出、はるばるニューヨークまで来ているにも関わらず、この小さな人間関係の中でドラマを繰り広げている。アメリカ来た意味あんの?林真理子か桐野夏生の小説を読んでいるんじゃないか?と錯覚を起こしてしまう泥沼の数々…。事実は小説より奇なり、映画一本撮れるんじゃないの?

数ヶ月前に退職した元同僚、仮にA子ちゃんとしよう。

彼女が「念願叶って、ようやく退職出来たので告白しますね。私、ずっと抱えていた爆弾があるんです…。」との前置きに、衝撃のチャプターを語り出したのだ。

時はさかのぼる事2年ちょっと前。私もまだ会社に居た頃だ。

別支店のB君が謎の退職をした。うろ覚えではあるが、私も社報などを通してB君の名前は何となく覚えていた。そうゆえば、社報でB君が退職と書いてあった事をA子ちゃんから聞いて思い出した。

B君は、大学では人事関連の勉強をしていたらしく、アメリカの雇用法に関してはかなり詳しかった。

この会社で繰り返され、黙認されている、目に余る違法行為に疑問を抱き、事ある毎に本社にクレームの連絡を入れては会社幹部にはぐらかされる、の行為を繰り返していたらしい。彼の言い分と行動は正しい。しかしながら、会社上層部からは相当煙たがられていたとのこと。会社の理不尽な対応、ブラック企業特有の息つく暇もない仕事のストレス、そんな辛い時期に彼女と別れてしまい、ノイローゼ気味になっていたらしい。

ある日、B君が大きなクレームを出してしまった為に、上司にこっぴどく叱られた。翌日、何の連絡も無しに会社をサボってしまったとのこと。支店の上司達は、クレーム処理からバックレようとしているB君を逃がす訳にはいかない、とB君のアパートを訪ねた。そこに、ちょうどB君の元彼女も来ていたので鍵を開けてもらい、一緒に家に入った。

B君は首を吊って亡くなっていた。

言うまでもなく自殺だ。特に遺書などは見つかっていなかったらしい。それを良い事に、会社側は「B君が彼女にフラれたから自殺した」との理由で事を収めたのだ。過去記事を読んで頂いた方はお分かりかと思うが、この会社に入社した人間は精神が狂ってしまう。

私が知っている限りでも、社員の数人はパニック障害に掛かって投薬治療をしながら通勤したり、鬱で精神病院に強制入院させられ、退職した社員もいる。私も睡眠障害に悩まされていた。彼女にフラれた事もきっとショックだったと思うけれども、原因はきっと、それだけではないというのは周知の事実である。

彼が自殺した、本当の理由は彼にしか分からない。

彼が悩みに悩んだ末に彼が自分で決めた人生なんだから、と、親しい先輩に諭されたのはつい先日の話である。私が何よりも許せないのは、他の誰でもない社長だ。

B君の生命保険金処理の為に保険会社の人が本社を訪れ、社長室に通された。A子ちゃんのオフィスと社長室は隣り合わせだったので、会話が丸聴こえ。その時、A子ちゃんは社長が「笑いながら」B君が自殺した旨を保険会社の人に説明していたのを聞き逃さなかった。そうなのよ、困っちゃうわよね、どうしようかしら?まるで他人事。

人が一人死んでいる。

避けられない病気じゃない、事故じゃない、自殺だ。死ぬ事が彼の選択だったとしても、果たしてその必要があったのだろうか?

彼が、自らの命を奪わなければならないまでに追いつめられた原因は?

私たちは、一日の半分以上を会社で過ごしている。 会社が彼の自殺に影響を与えていることなんて、どんなバカでも分かる。

その会社を代表する人間が、従業員の自殺と保険金処理に付いて「談笑」しているのだ。

こんな事があっても良いのだろうか?

私が高校の時、一つ上の先輩が亡くなった。全校放送で先輩の死についての説明があった時、クラスメイトの一人が悪ふざけの延長で放送を無視して笑っていた。担任の先生は、すかさずそのクラスメイトの席まで駆け寄り、何の躊躇いもなく頬に平手打ちをし、「出て行け!」と怒鳴った。人が亡くなった時にふざけて笑うことが、いかに不謹慎であるかは高校の時にこうやって学んだ。それが常識だって分かっていたけど、先生が見た事もない形相で怒っているのを見、改めて人の死を軽く扱ってはならないのだと意識した瞬間だった。

私は、金にがめつく、自分の会社の社員の死を笑いながら話すような人間の元で2年間も献身的に働いていたのだ。

A子ちゃんはB君の自殺について知らなければならない立場の役職だった。上長からは「企業秘密だから、絶対に他の社員に漏らさないように」と口止めされたらしい。なるほど、だから社報ではB君は退職扱いになっていたのだ。「社員が自殺した」なんてことが業界に知れ渡るとイメージダウンにつながってしまう。会社の美しいイメージを保つが為に、B君の自殺はなかった事にされてしまった。犬死に、という言葉が頭を過る。会社のイメージは、一人の社員の命よりも重いらしい。百歩譲って、「自殺」と明記しなくても、「別支店の社員が不慮の事故で亡くなった」と社報に書いて知らせる事も出来ただろうし、一緒に働いていた仲間の一人に黙祷の一つを捧げる事位出来たはずだ。東北大震災の時は犠牲者に黙祷を捧げたのに、自殺した社員には黙祷の一つも捧げられない。むしろ、私自身もB君が自殺した話なんて、A子ちゃんから聞かない限り永遠に知る由もなかった。徹底した隠蔽体質。

更にこの社長、B君の葬式に参列する事を嫌がっていたのである。

なんで私が行かなきゃならないのよ?いや、社長、今回ばっかりはカタが付かないのでお願いします、と会社幹部が頭を下げた上で渋々参列した。数万人の社員を抱える大企業であれば話は別であるが、社員数は他支店を併せても数える程度の小さな会社である。バケーションで年に最低2回は日本に帰り、毎週の如くゴルフに参加するフットワークの軽さなのに、社員の葬式には参列する必要はないと判断したらしい。

本筋とは少し外れるが、この社長は相当金にがめつい。給料管理は会計部ではなく、全て社長が牛耳っている。社員の給料は最低賃金のギリギリ上くらいの安さ、おまけに私たちは移民なので、アメリカ政府の福利厚生が受けられない、ちょうど生き地獄の給料である。貯金する余裕も趣味に費やす余裕もないので、生きる為に仕事へ行くというルーティーンワークで将来に絶望しか見えなかった。社員は安月給で働いているにも関わらず、少し前に社長は市内の超高級アパート(東京で言うところの六本木ヒルズといったところ)を購入した。お気付きかもしれないが、社長の取り分が圧倒的に多く、実は会社幹部の給料も他社に比べると格段に少ないと先輩からこっそり聞いた事がある。社長が新居を買った年、私たち社員は全員ボーナスカットだった。いつまでバブルの名残を引きずっているのだろう。社員は死ぬまで追いつめられているのに。

何度もこの会社の悪事を暴くべく、アメリカの税務署と移民局に違法行為を通報しようと考えた。

しかし、出来ない。今、辞めた私たち元社員が通報してしまうと、現存の社員に迷惑が掛かってしまうと考えると、どうしても出来ないのだ。アメリカに夢を追いかけて来た社員もいるし、家族を持つ社員もいる。会社の悪事を暴くか、罪のない現存の社員を路頭に迷わせるか。社長と違い、私たちには心が残ってるので、どうしても通報することが出来ないのだ。会社側もそれを分かっていて、完全に足元を見ている。

前回も触れたように、このどうする事も出来ない怒りを一人でも多くの人に知ってもらいたい気持ちでこのブログを書いている。仲の良い知人に「もう終わった事なんだから、今は自分の事にもっと集中しなよ。」と、ごもっともなアドバイスを頂いた。正直、私もブラック時代の事は自分の中で消化し、辛かったけど良い経験になったな、と思い始めていた頃だった。しかし、今回の件をA子ちゃんに聞き、どうしてもブログを更新せずにはいられなかった。

一日でも早く、あの会社と社長の悪事が暴かれ、相応の罰をが与えられる日が来る事を願ってやまない。

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