バンドマンの彼女

「こんな事になるのであれば、十代の間にバンドマンにヤリ捨てされとけば良かった。」

いわゆる「青春浪人」(青春時代に遊び尽くせていなかったしわ寄せで悶々とする二十代)の私とサブカル仲間の友人は、深夜ニューヨークでジャズを聴きながら嘆いた。目の前で西洋版・オダギリジョーがクラシック・ベースを演奏していてこんな話題になった。余談であるが、このバンド内だと誰とヤレる?と、会話の内容は男子中学生と変わらない。「ヤってみたいディズニーの王子様」にまで話が飛躍した。もちろん、普段からジャズを聴く様なお洒落仲間ではない。この5分前にはお気に入りのアダルトビデオについて真剣に議論していた。

話が逸れてしまう前に本題。

バンドマン、フォトグラファー、ダンサー、ライター、映像作家、デザイナー…いわゆるアーティスト系のクリエイティブな職種の男性は女性のハートをくすぐる魅力に溢れている。

特にミュージシャンは、見た目は普通のお兄さんでもステージに立っているというだけで10割増でカッコ良く見えるのだ。一般的にバンドマンはモテ男が多い。

しかし、彼らと真剣にお付き合いをする上での問題点は、定職に就いていない(就けない)ダメ男が多い点ではなかろうか。

私はバンドマンと付き合った事がないので、リアルな実体験を報告出来ないのが非常に残念ではあるが、バンドマンと付き合っていた知人の何人かは確かに苦労していた。最低限の収入はアルバイト、やれスタジオだのライブだので常にお金がない。彼女に金を無心するのである。その上、女ったらしという取って付けたようなダメ男が多かった。皆が皆そうではないが、傾向としてバンドマンは誰よりもステージで演奏している自分を愛しているので、その彼女はことごとく振り回される。彼女が彼を思って料理している横で、当のバンドマンの彼氏は、ロッキン・オン・ジャパン(あるいはローリング・ストーンズ誌)にインタビューされた時の自分を想像している。そんなダメ男達の魅力といえば、やはりライブでギターをかき鳴らしている時の格好良さだろうか。興味のない人間からすれば、完全に自分に酔っているただナルシストに見えると思うが、やはりミュージシャンが演奏している姿というのは魅力に溢れている。極端に言えば、カート・コバーンに言い寄られて断る女性は少ないと思うのは私だけだろうか。私の場合、カートとなら火遊びでも!と秒殺である。

実際、アマチュア・バンドのショーを観に行った時、「お持ち帰りされ待ち」の若い女の子をよく見掛ける。過疎化しているライブハウスの最前線でキャーキャー言いながら、やたらと露出度の高い服を着ている。ぼったくりのビールを右手に、最後尾で冷静に人間観察している30代手前の自分が少し悲しくなる。

しかしながら、冒頭でも触れたように、私個人的には、まだやり直しのきく十代から二十代前半の間に、こういったダメ男に徹底的に遊ばれておけば良かったと非常に後悔している。

映画「あの頃のペニーレインと」(“Almost Famous”)をご覧になった事はあるだろうか。駆け出しで売れ始めたバンドの追っかけをする女の子がリアルに描かれているので、まだ観た事ない方は是非ともチェックして頂きたい。私が思い描くバンドマンとの恋愛の世界はこの映画に凝縮されている。

他のファンの女の子と君は違うんだよ、と特別扱いされて優越感に浸ってみたり、誕生日に自分の為に作詞作曲してくれたラブソングを弾き語りでプレゼントしてもらったり、ライブで「僕の大切な人の為に歌います。」って言われてみたり、彼のカッコいいステージをサポートする為に働く自分に酔ってみたり、自分たちをヨーコとジョンだの、ナンシーとシドだの、コートニーとカートだのとことごとく美化して感傷に浸ってみたり、別の女との浮気が発覚して怒鳴り散らして同棲中のアパートを飛び出してみたり、なかなか刺激的ではないか。

しかしながら、こんなエキサイティングで危険な恋愛を今から楽しめるか?と言うと、正直私にはそんなパワーは残っていない。一応結婚しているというのもあるが、もし独り身だったとしても同じ意見であろう。心は17歳でも、もうこれ以上失敗出来ない年齢というのが現実なのだ。取りあえず定職に就いている、浮気しない男性が一番だと思うのは、自分が年を取ってしまった証拠だと感じずには居られない。

やはり、バンドマンとの過激な恋愛は、妄想範囲で収めておくのがケガも火傷もしなくて済みそうだ。

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