小鳥救出した話

大学2年の頃の話である。
学校のキャンパス内の寮の目の前で飛べない小鳥がヨチヨチと歩いていた。
問題なのが、その鳥が半ナマなのである。
私の乏しい語彙力では半ナマ以上の表現が全く思いつかないのだが、例えるなら理科室の人体模型のように血管が見えていて、少し羽が生えている状態だった。ああ、こいつは間違いなく事故った鳥だ、と私は思った。
見捨てて寮に戻る事もできたが、寮の前は車の通る道路なので無視する=見殺しになる。
私の中に僅かに残る良心から、半ナマの鳥をすくい上げて手のひらに乗せた。
間近で見ると更に気持ち悪い。人間9割が見た目らしいが、多分鳥もそうだろう。
しかしながら事故った半ナマの鳥に罪はない、命は地球より重いのだ。飛べない半ナマの野鳥は焼き鳥にもならないが。
さて、問題はここから。この半ナマ鳥をどうするかだ。
こっそりと寮で育てるのもアリだな、鳥なんて飼ったことないから飼い方をググらなければ。
内緒でペットを飼う、秘密を持った子供のようにウキウキしてきた。
怪我が治って羽が生えたら窓から解放して自然に戻してやろう、と私の中で完全なる美しい脚本が出来上がっていた。
左手のひらに半ナマ鳥を乗せ、ちょうど釈迦が瞑想する具合の手つきで寮の受付に入った。
すると、受付のオバちゃんに “NO PET!”と一喝されてしまった。
久しぶりに良いことをしたので、完全なる瞑想トランス状態に陥っていた私は左手のひらの半ナマ鳥の存在を忘れていたのだ。
救出しておいて数秒で忘れるとはなかなか薄情で、今後鳥の育て主となるのも考えものである。

私「寮の前で拾ったんですけど。」
受付「わかったけど、ノー・ペット。」

今更ポケットに半ナマ鳥を忍ばせてもバレバレである。ああ困ったどうしよう。
半ナマ鳥を左手のひらに乗せたまま、途方に暮れて受付をウロついていると、寮生の女の子が鳥を見て
“Oh, Baby Bird!”(あら、鳥の赤ちゃん!)
この時、私は初めて半ナマ鳥が事故った鳥ではなく鳥の赤子だと認識した。
なるほど、だから飛べないでヨチヨチ歩きで血管が見えた半ナマなのだ。
「道に落ちてたんだけど、どうしようかしら。」
私が女の子に相談すると、彼女
「多分、鳥の巣から落ちちゃった子だから、巣に戻さないとね。でも人間の匂いがついたら親鳥が食べてしまうって噂があるから、それは良くないな。ちょっと待ってて」
と、彼女は受付横のコンピュータ室に行って何やらリサーチしだした。
手のひらの半ナマ鳥のコンディションと、私が鳥を持ち込まないか厳しく見張っている受付のおばちゃんの二つのプレッシャーから、判決待ちの被告のような緊張感に見舞われていた。
結果的に、女の子がアニマル・コントロールにわざわざ電話して、半ナマを巣に戻しても問題無いか確認してくれた。
当時、私は英語があまり話せなかったので、この合いの手は心から助かった。
巣に戻しても問題ないとの事で、さっそく戻す作業に取り掛かる。
受付のおばちゃんにハシゴを借り、巣のある木に立てかける。
結構な高さがあり、しかもハシゴがグラついているではないか。
高所恐怖症も手伝って、震える足でハシゴに登る。半ナマ鳥よりも自分の命の方が今は確実に危ない。
半ナマを落とさぬよう、また緊張のあまり握り潰さぬよう、片手でハシゴに登るのはなかなかスリリングだった。
女の子「下で支えてるから大丈夫だよー!」
私「オオウ、ソーリー!」
何に対して謝っているのか、全くわからない。
日本人が無駄に謝る事が多いと噂だが、私はどうやらテンプレートそのものの日本人らしい。
震える脚と震える手で半ナマを巣に戻した。親鳥と目が合ったので、頼んだぞ、と第一線に繰り出す兵士を見送るような気持ちで、目で合図を送っておいた。今でもあの親鳥の表情をしっかりと覚えている。
女の子 「グッド・ジョブ!」
私「こちらこそ、協力してくれてありがとう!」
実際、鳥のに関してど素人の私が育てても半生の命は危なかったかもしれない。
女の子の協力なしでは成せない善業であった。偶然の出会いに感謝である。

かくいう私は、お腹が空いたので、チキン・ウィングでも買いに行くことにする。

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